九州大学青木研究室-理論化学グループ
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有機化合物中の回転障壁の解析

 有機分子中の回転障壁の原因を明らかにしていくことは,有機反応機構を解明する上で重要な鍵を握っている. 図1に示すエタンのような簡単な分子の回転障壁(約3kcal/mol)でさえ,その原因について論争中である。現在最も有力な説は,ねじれ型(Staggered体)における“分子内電子移動による安定化”が回転障壁を作り出すというものであり,重なり型(Eclipsed体)におけるC-H結合間の反発に起因するという従来の説を覆しつつある
※V. Pophristic et al., Nature 411, 565(2001).
図1     

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 そこで、回転障壁の問題に対するTS/TB解析法の妥当性を調べるため、エタンをモデルに取り上げた。 エタンのStaggered体およびEclipsed体それぞれに対して、 TS/TB法によって向かい合うすべてのC-H⇔C-H間の相互作用をカットしたところ、その回転障壁は完全にはなくならならず,0.67kcal/molの障壁が残った(図2中央.Through-Bond(TB)状態と呼ぶ).原因を調べたところ,C-H結合の分極のために静電的相互作用の打ち消し合いのバランスが崩れたことによることがわかった。さらにメチル基内の相互作用をカットしたところ、C-H間の分極が抑えられ、回転障壁のほとんどない(0.06kcal/mol)状態が実現した(図2下).回転障壁を持たないこの理想的な状態をPure Through-Bond(PTB)状態と呼ぶことにする。
図2     

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 図3はPTB状態の分子軌道を解析のためのベースに用いて, 向かい合うC-H⇔C-H間の相互作用の寄与を解析したものである。 それによれば、TB相互作用が分子に存在することによってe対称を持ったσ*(C-H)軌道が, 同じe対称をもつσ(C-H)軌道に混ざりこむ様子がみられ、Eclipsed型よりもStaggered型の方がその寄与が大きいことがわかった。これは、σ軌道からσ*軌道への電子移動に相当し、ねじれ型の方が優位に電子移動を起こすという,立体電子効果が確認された。
図3     

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 解析に使用したPTB状態(回転障壁のない状態)は図4に示すようにCIレベルの計算でも保たれており,基底状態だけでなく,さまざまな励起状態に対する解析のベースとなりえることがわかった。
結果の詳細は参考文献6を参照.
図4     


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